転載元: https://nova.5ch.net/test/read.cgi/livegalileo/1680127591/
手紙は紛れもなく自分に宛てられたものだった。その呪詛のような文言に込められているものが何なのかも分かった。前沢には自分が、札幌に住んでいる一部の人々にとって呪うべき存在になっているという自覚があった。
ボールパーク建設計画が世に出て以降、メディアは連日、札幌市と北広島市の誘致合戦を報じるようになった。北広島市はほとんど手をつけていない32ヘクタールの建設候補地を用意し、向こう10年間の固定資産税減免にも応じる姿勢を示した。それに対して札幌市は地権者や住民、議会などとの意見調整がつかず、候補地の選定もままならない状況だった。メディアの論調は「札幌苦戦」に傾き、市民の不安を煽った。札幌ドームでの野球観戦をライフスタイルとしてきた札幌市民の不安はやがて怒りに変わった。
なぜ、わざわざホームスタジアムを出ていくのか。
なぜ、本拠地の札幌を天秤にかけるようなことをするのか。
その怒りの矛先はホームスタジアム移転を推進する存在として日々紙面に名前が載るファイターズ事業統轄本部の前沢や三谷に向けられた。
この街の人々にとって、自分はどんな男に見えているだろうか……。前沢は想像してみた。自分たちはファイターズという球団で働いてはいるが、ユニホームを着て日々グラウンドに立っているわけではない。テレビ画面に映り、顔も声もキャラクターも多くの人に知られた新庄剛志や稲葉篤紀とは違う。
前沢はファンの人々にとって顔の見えない背広組だった。金のために、恩義ある札幌に背を向けようとしている冷徹なビジネスマンと捉えられていてもおかしくはなかった。
球団に届く市民の怒りの声も、「死ね」というメッセージも、裏を返せばファイターズへの愛着であった。ただ、そうとは分かっていても、手紙を目にした前沢の背筋には冷たいものが残った。まだプロジェクトチームを発足させたばかりの頃、ある人物にこう言われたことがあったからだ。
「これから覚悟しておいた方がいいよ。これだけ大きな規模の開発事業になると、1人か2人は死ぬ。それが、どこの誰になるかは分からないけど……開発ってそういうものだから」
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Source: なんじぇいスタジアム@なんJまとめ