胸の熱くなる想いだった。徳川絡繰屋敷にての第三戦、猛牛の勢いを誇る覇軍が最強・池田軍に逆襲を許し、未だ全面を囲まれる中、将高津が出撃を命じたのは和尚であった。
此れを一息にくぐり抜けた和尚は、続く第八戦線も一息に首三つ。僅か十の説法にて池田軍を封じたのである。
”素荒守”大兄、毬藻男田口が不安な守護を見せ、有卦今野もまた秋口より乱れる合戦多く、果てさて第七戦線の守護を任せるには如何なものか。然し戻りし和尚が名乗りを上げ、第四戦はざんばらり。嘗ての威光を取り戻すが如き説法に、信徒共は涙涙にくれるのみであった。
遂に天下統一に手が届くか。老師石川ですら掴めずにいる頂点にあと僅か。本願寺一行は、最後の戦いに臨む。
絡繰屋敷も連日の死闘に間もなく崩壊を迎えるだろう。ともならば、池田軍の一気呵成は充分有り得る話。必ずや、今宵、決めねばならぬ。
俄に絡繰屋敷がざわりとする。何と其の先鋒、金剛原ではないか。徳川軍との争いにて手首を斬られ重傷を負っていたのではなかったか。然し男は悠然と立ちはだかる。己が手で頂を掴むのだと。
僅かに傷の影響は残る。一陣や二陣に間者を許すと銃口が明らかに乱れるのだ。然し其れでも、第六戦線の中途にて毬藻男田口に託すまでを僅かな手傷のみにて切り抜ける。
田口は砲撃王てぇ岡田に一撃を受け、金剛の誉れは消えてしまう。然し金剛原の見事な守護に誰もが賛辞を惜しまなかった。
だがやられるばかりで居られぬ池田軍の粘りである。第二戦線には僅かに火を起こさせながらも”押忍成”を併殺の陣で追い込む、第六戦線の決定機では刀曲げ吉田の好守護にて防ぐなど、決定打は決して与えぬのだ。
膠着する戦場で、遂に其の時が訪れる。勝機と見た将高津、再び和尚に出撃を命ず。三連続の説法ともなろうが、和尚は幾度もこの程度、乗り越えてきた。
第八戦線には昇華清水が舞台を整え、第九戦線では江戸っ子”幕賀府”が勝利を祝う四尺玉花火を用意している。ならば和尚が其れ迄の道を開くのみ。
いざ御覧じろ。此れより相対するは石山本願寺の誇る堅牢なる守護陣ぞ。和尚は故に挑む。最大にして、最高の壁を越えた刻、見ゆる景色は如何なるものか。
石山本願寺、城門閉鎖まで首三つである。
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Source: ツバメ速報